生きてる幸せ

「結望、おいで」

「…!」

 突然呼ばれたのにも関わらず、私は深守の元へ駆けると大きく広げた腕の中へ飛び込んだ。だけど勢いが良すぎたのか、そのまま「わっ」と後ろへ倒れてしまう。

「あぁどうしましょう…ごめんなさい深守、背中は大丈夫…?」

 私は心配になり急いで身体を起こそうとするが、その前にぎゅうと私の事を抱き締めて離さない。

「捕まえた…っ」

 と彼は倒れた事などお構いなしに楽しそうに笑った。

「生きてるって感じがしてサイコーよ」

「………深守の鼓動がよく聞こえます」

 私は抱き締められたまま、胸に耳を落としてトクン、トクンと一定の律動を奏でる心臓の音を聞く。たったそれだけなのに嬉しさを覚える。

「アタシも、アンタのカワイイ音が沢山聞こえて嬉しいわ」

 ぴくっと狐の耳を揺らしながら深守は微笑んだ。

 今此処に自分がいるのは間違いなく深守のおかげだ。彼がいなければ、私はいない。

 深守が私に生きる理由を与えてくれたからこそ――。

「ありがとう、深守」

「おや、改まってどうしたんだい」

「…私には、深守がいないとだめみたい…です」

「………アッハハ、知ってるわよ。ずっと昔からね」

 私達は口付けをする。

「……生まれてきてくれてありがとう、結望」

 大好きを沢山伝えられますように。